海外での宝石買い付けの価格について、私の体験を披露してみましょう。私は30年近く、タイ、香港、中国、米国、オーストラリア、スリランカ、イタリア、メキシコなどの国々へ宝石の買い付けに出向いており、さまざまな体験をしているのですが、それらをすべて披露させていただくと、1冊の本ができるくらいたくさんのエピソードで溢れてしまいます。すべての宝石の相場について、完璧にその相場を掌握することは、どんな天才バイヤーにも無理な話です。4Cで価格がある程度推定できるダイヤモンドは別格としても、十大宝石や稀少宝石全般の価格を掌握することは困難を極めます。ただし、エメラルド、ルビー、サファイアだけの専門バイヤーのように、常に一極集中的に買い付けをする勉強熱心なバイヤーであれば、かなり正確な価格相場を掌握することは可能でしょう。しかし、たとえばタイのバンコクの宝石輸入商を同じ日に100社、買い付けに回れば、100種類の価格が存在するのが、工業生産品や加工食品などと違う天然素材である宝石の買い付けの難しい点です。国名を挙げて国際問題になっても困ってしまうので、たとえばA国の宝石ブローカーとしましょう。このA国人とは数年以上も取引関係があり、それなりに人間関係もある人物なのですが、毎回買い付け交渉の度に、最初はビルマルビーAクラス品1ctを100万円と提示してきます。「ダメダメ!高すぎる。ノーサンキュー!」と答えると、「社長、いくらならOK?」と迫ってきます。このやり取りを数回繰り返し、最終的には、最初100万円だったビルマルビーが20万円くらいで妥結するのが常です。「君とは長年の付き合いだし、信頼しているのだから、こんな数回にわたる価格交渉は無駄な時間だから、一発回答で価格を出して」と、毎回申し入れるのですが、この国の商習慣なのか、彼のゲームなのか、いまだに改善されません。無論、任せて安心の外国人も多く存在しますが、それ以上に海千山千でこちらが少しでも気を抜いて油断すれば、トンデモナイ買物をさせられる羽目に遭うこともしばしばあります。プロの世界では騙されるほうがバカなので、抗議しても笑われるだけで、恥の上塗りを自らすることになってしまいます。